Thomas river
トーマスリバー
はるかトーマス
数あるニュージーランドの川の中から何の情報もなく、いい川を見つけるのはとても難しい。
苦労せずにいい川で釣りをし、いい魚を釣りたければ大金を払って、
ガイドを雇い、ヘリコプターを使って山奥に入ればよい。
しかし私にはそんなお金もないし、ニュージーランドの醍醐味がない。
そのかわりもてあまる時間と若さならたっぷりある。
それなら苦労するしかない。その苦労を楽しんでこそ1尾というものだ。
それでどうするかと考える。
まず、地図をにらむ。
川に沿って道がない、上流に山小屋がある。
行く手を阻むゴルジェや滝がなく、水量十分で、良さそうな川を見つけたらまずニヤリ。
地図をにらむときからすでに釣りが始まっている。
川を見つけたら、釣具やインフォメーションセンターで情報を聞く。
地主がいるか、許可が必要かも聞く。
ジョンケントが書いたガイドブックを辞書を駆使して読む。
だいたいの情報がそろったら、あとはリュックにテント、食料を詰め込んで、
体力に任せて歩くしかない。
情報は情報であり、実際は自分の足と目でその川に行ってみるしかない。
トーマスリバーももそうして見つけた川の一つだった。
ハースト(Haast)の町からSH6にそってハーストリバーを上流へと車を走らせると、
ハーストリバーへ流れ込むトーマスの谷が対岸に見える。
ハーストリバーはある本によると、3.5kgの魅力的なブラウンが釣れると書いてある。
5万分の1の地図を見てみると、程よい水量で、ゴルジェもなさそう。
こりゃ行くしかない。
だけど問題があった。
トーマスリバーへ行くには、巨大に流れるハーストリバーを渡らなければならない。
お金さえ払えば、ヘリコプターでひとっ飛びだし、ボートで渡してもらうことも可能。
そこまでするほどこの旅にはお金は無く、私はまだまだ若い。
できる限り自分の足で釣り場に行きたい。
そう思いながら、この国道6号線を通りがかるときは、
いつも指をくわえて見ているだけだった。
02年2月1日。雨が少なく、周りの川の水は少ない。
「こりゃいけるかも」とハーストリバーを渡ろう試みてみた。
泳いでもいい服に着替え、まずは荷物なしのチャレンジ。
巨大にでかいハーストリバーでも渡れそうな瀬がある。
そこを目指し歩く。
青く澄んだ水は、音も立てずに滑るように流れえていた。
川底を見る限りでは、渡れそうだった。
瀬までたどり着き、覚悟を決めて川に入ってゆく。
一見浅いと思う流れは、澄んだ水のせいで予想以上に深い。
一気に腰まで水につかる。そして流れはまったりとして重い。
川の真ん中にさしかかる前に、立っていることすらできない重い流れに、
「こりゃダメだ」
少し上流から再びチャレンジしてみたが、見た目よりも深く重く、やっぱり無理だった。
「渡れない・・・」
Thomas Riverはすぐそこなのに、あきらめるしかなかった。
もう少し水が少なければ・・・
あと40センチ私の身長が高ければ・・・
青く澄んだ水はあまくなかった。
ぬけるように青い空と、強い日差しで、ハーストリバーに跳ね返された。
トーマスリバーに歩いていくことが「不可能」ということがわかった。
これで良しとしよう。
いつかヘリでのんびり行けばいいだろう。
うーんでも行きたい・・・
02年2月1日Haastより
ハーストリバーをはさんでトーマスリバーの谷が続く・・・
セミが鳴き、突き刺すような陽射し、すぐ目の前なのに・・・渡れない